逆引きマーケVol.1:
「それって何が良いの?」が
置き去りにされる時代
2026/05/14

世の中には、企業側は「価値を伝えているつもり」なのに、消費者側は「で、何がいいの?」で止まっている表現が多いように感じます。
たとえば──
「〇〇レザー使用」
「遺伝子組み換えではありません」
「オーガニック」
「ノンシリコン」
「サステナブル」
…こうした言葉は、今や世の中に溢れています。
ただ、その多くは“知っている前提”で作られている気がします。
業界の中では「価値ワード」として成立していても、一般の生活者からすると、
「それって、具体的に何が嬉しいの?」
「自分にどう関係あるの?」
が分からないまま終わってしまうことも少なくありません。
「価値」より、「翻訳」が必要なのかもしれません。
たとえば「〇〇レザー使用」。
革が好きな人には、その言葉だけで価値が伝わります。
でも、普通の人からすると、
何が他と違うのか
なぜ高いのか
耐久性なのか
手触りなのか
経年変化なのか
ブランド性なのか
…そこが見えてこない。
つまり、「素材名」は説明していても、「生活の中でどんな価値があるのか」までは翻訳されていないんですよね。
本来必要なのは、「長く使うほど艶が増して、傷すら味になる革です」のような、“生活に置き換えた説明”なのだと思います。
消費者は、素材そのものを買っているというより、その先にある「体験」や「未来」を買っているのかもしれません。
「遺伝子組み換えではありません」に感じる違和感。
これは、個人的にはかなり象徴的な例だと思っています。
実際、多くの人は「遺伝子組み換え」が何なのかを詳しく知っているわけではありません。
どんな議論があるのか、何が問題視されているのか、説明できる人は意外と少ないのかもしれません。
それでも、「していない」という表現だけが“安心の記号”として流通している。
つまり、「不安ワードだけが共有されて、理解そのものは共有されていない」という状態が起きている気がします。
少し大げさかもしれませんが、場合によっては“不安を利用したマーケティング”に近く見えてしまうこともあります。
EC・SNS時代は「意味の補足」が消えやすいですね。
昔は対面販売が中心でした。
店員さんが、
なぜ良いのか
何が違うのか
誰に向いているのか
を、その場で補足できました。
でも今は、ECやSNSで「単語だけ」が先に流通します。
結果として、「知っている人だけが理解できる市場」が増えているように感じます。
これはマーケティングというより、半分“業界内の符丁”に近いのかもしれません。
本当に必要なのは、「消費者の疑問」から逆算することかもしれません。
一般的なマーケティングは、
「価値 → 言葉」
の順番で考えます。
でも、これからは逆なのではないかと思っています。
つまり、
「それって何?」
「何が嬉しいの?」
「自分に関係あるの?」
「結局どう変わるの?」
という消費者側の【?】から逆算して設計する。
これは、“知識を前提にしないマーケティング”とも言えるのかもしれません。
強い商品説明ほど、「専門性」を前面に出しすぎないですよね。
Appleは分かりやすい例です。
CPU名やメモリ規格、転送速度を主役にはしません。
代わりに、
「映画編集がサクサクできる」
「バッテリーが一日持つ」
という“生活翻訳”をしています。
つまり、スペックではなく、「体験」に変換しているんですよね。
これからの時代に必要なのは、
“知っている前提”を疑う力なのだと思います。
業界に長くいるほど、人は「これくらい当然伝わるだろう」という感覚を持ってしまう。
でも、消費者はその業界の住人ではありません。
だからこそマーケティングは、難しい言葉を並べることではなく、「つまり、どういうこと?」を先回りして翻訳し、相手の日常に届く言葉へ変えていくこと。
そんな技術なのではないかと感じています。