逆引きマーケ:
ちょっと寄り道 ひとりごと
「原点に戻ると、商売の本質が見えてくる」
2026/06/03

私はずっと、小さなカフェをやりたいと思っている。
それは目標というよりも、長い間もっている漠然とした「夢」。
あるいは、人生のどこかに存在する「もうひとつの世界」のようなものだ。
たぶん、その原点は私の社会人としての出発点でもある「珈琲道場侍」でのアルバイト経験にある。
先日、久しぶりに近藤マスターと打ち合わせをした。
侍は創業から47年。マスターは82歳になった。
これまでに3つの大病を経験され、ずっと心配していたのだが、最近はだいぶ元気になられたようで、久しぶりにゆっくり話をすることができた。
珈琲道場侍は、私が18歳の時、人生で初めてアルバイトをした店だ。
大学1年生の夏休み。
JR亀戸駅前に新規開店準備中の店があり、「オープニングスタッフ募集」の貼り紙が出ていた。
店の名前は「珈琲道場侍」。
正直、変な名前だと思った。
面接の日、私は短パンにサンダルという格好で行った。
当然のように叱られた。
それでも採用され、私は開店第1号のスタッフになった。
当時の私は、ギターと作曲とバンド活動に夢中だった。
自分は何でもできると思っていた年頃で、大学よりも音楽のほうが大切だった。
18歳から25歳まで、私は侍で働きながら音楽という夢を追い続けた。
侍の接客は、本当に厳しかった。
「いらっしゃいませ」
「ありがとうございました」
声の出し方から、お客様への姿勢まで何度も教えられた。
従業員は、トイレを使うたびに掃除をする。
当時はバブル景気の真っ只中。
店は毎日大繁盛だった。
カウンターの中とホールを行ったり来たりしながら、コーヒーを淹れ、パンを焼き、生ホイップを作り、洗い物をする。
忙しい日は、カウンターの隅にしゃがみ込んでパンをひとかじりするのが昼食だった。
若い頃は気づかなかったが、会社を経営するようになって分かったことがある。
あの頃に教わったことは、すべてに通じていることを。
トイレ掃除も。
接客も。
挨拶も。
声を掛け合うことも。
お客様の顔を覚えることも。
結局、商売の本質は派手なマーケティングや難しい理論ではなく、「目の前の一人のお客様を大切にすること」なのだと思う。
マーケティングというと、どうしても戦略や仕組みの話になりがちだ。
しかし、その土台には必ず人がいる。
今でも侍に行って、水出しアイスコーヒーを飲みながら、まだまだお元気なマスターとお話をするのが楽しい。
私の仕事の原点は、すべてこのお店で学んだのだと思う。
だから私は今でも、小さなカフェをやっている自分を思い描く。
商売とマーケティングの原点が、そこにあるような気がするから。