コラム

逆引きマーケ:ちょっと寄り道
もし1999年にAIがあったなら。

2026/09/09

私が起業したのは、1999年です。

今から振り返ると、まだまだアナログの時代だったと言ってもいいのかもしれません。

今では「フリーランス」という言葉が当たり前ですが、当時、個人や小さな事務所で仕事をするスタイルは「SOHO(Small Office/Home Office)」と呼ばれることが多かったように記憶しています。

私も最初は一人でした。

営業も自分。
企画も自分。
見積書も、メールも、会社案内も自分。

全部、自分です。

今なら分からないことがあれば、AIに聞けばいい。

でも、当時は敬語ひとつ調べるのにも手間がかかりました(笑)。

「この敬語で合っているのかな」
「会社の文章として、これで大丈夫なのかな」

そんなことを一つひとつ考えていました。

会社案内もつくりました。

ハンコもたくさんつくりました(笑)。

当時はハンコをつくると、なんだか「会社っぽく」なったようで嬉しかったものです。
ちなみに、その頃につくったハンコを27年経った今でも使っています。

創業したばかりですから、会社案内に載せられる実績もほとんどありません。

仕方がないので書いたのは、

「こんな会社にしたい」
「こんな仕事をしたい」

という、ほとんど「気持ち」と「願望」でした(笑)。

小さな会社でも、なんとか「ちゃんとした会社」に見せたい。

そんな背伸びをしていたのだと思います。

「建物の清掃の女性を入れて3人です」

創業期のことです。

ある中堅ゼネコン企業のホームページ立ち上げのコンペに参加しました。

たしか3社のコンペで、先方の会議室には社長をはじめ10人くらいの方が並んでいました。

私のプレゼンの途中、社長から突然聞かれました。

「御社は何人の会社ですか?」

困りました。

まだ、本当に小さな会社です。

でも、少しでもちゃんとした会社に見せたい。

当時30代だった私は、とっさに答えました。

「建物を毎日清掃してくださる会社の女性を入れて、3人です」

社長は大笑いしました。

毎日挨拶をしていた清掃の方まで、勝手に弊社のスタッフにしてしまいました(笑)。

私が会社を少しでも大きく見せようと背伸びしていることが、全部伝わってしまったのでしょう。

結果、そのコンペは弊社に決まりました。

その会社とは、その後2024年に他社と統合されるまで、20年以上お付き合いが続きました。

今になって考えると、あの頃はずいぶん不器用な背伸びをしていたものです。

2026年の「一人」は、1999年の「一人」と違う

そして今、AIがあります。

一人で起業しても、会社案内やメールの文章を整えてもらえる。
提案書の構成を考えてもらえる。
市場を調べたり、営業先を考えたり、プレゼンの相談までできます。

昔なら、人に相談したり、外注したり、何時間も自分で調べていたことを、一人でかなりのところまでできるようになりました。

そう考えると、

1999年の「一人」と、2026年の「一人」は、同じ一人ではありません。

今なら、創業したばかりの一人の会社でも、ずいぶん立派な「てい」を整えることができます。

言い方は悪いですが、カッコいい「ごまかし」ができるようになりました。

私は、それがちょっと羨ましい(笑)。

「手元にあるもので、なんとかする」

最近、経営について勉強することが増えました。

そんな中で、「ブリコラージュ」という言葉を知りました。

もともとは「あり合わせのもので何とかする」といった意味の言葉で、起業家研究にも「起業家的ブリコラージュ」という考え方があるそうです。

それを知って、1999年に一人で起業した頃の自分を思い出しました。

人もいない。
お金もない。
実績もない。

それでも、手元にあるもので何とかする。

「ああ、私もそんなことをやっていたのかもしれない」と思いました。

実績がないなら、「気持ち」と「願望」を会社案内に書く。

会社を少しでも大きく見せたいなら、ビルの清掃の方まで人数に入れてしまう(笑)。

ずいぶん不器用ですが、当時の私にとっては、それも「手元にあるもの」だったのかもしれません。

では、今、一人で起業する人の「手元」には何があるのでしょう。

そこには、最初からAIがあります。

AIは、一人で起業する人にとって、とても大きな「経営資源」の一つになったのかもしれません。

ただし、AIできれいな会社案内や立派な提案書はつくれても、それだけで会社が続くわけではありません。

お客さまから仕事をいただく。
約束したものを納める。
失敗したら謝る。
そして、もう一度仕事を頼んでいただく。

会社は、そんなことを一つひとつ繰り返しながら、少しずつ会社になっていくのだと思います。

あの頃の「背伸び」

今、一人で起業したなら、AIを使って、会社案内も提案書も、ずいぶん立派につくれるでしょう。

お客さまへのメールに悩むことも、当時よりずっと少ないと思います。

少なくとも、1999年の私よりは、ずっとスマートに「ちゃんとした会社」をつくれる。

やっぱり、少し羨ましい(笑)。

でも、今でも時々、あのゼネコンの会議室を思い出します。

「御社は何人の会社ですか?」

と聞かれて、

「ビルの清掃の方を入れて3人です」

と答えた私。

社長は大笑いしました。

あれは、会社を少しでも大きく見せようと必死だった、当時の私なりの「背伸び」だったのでしょう。

AIがあれば、あの頃の私のような不器用な背伸びは、ずいぶん少なくなるのかもしれません。

それは、とても便利で、羨ましいことです。

でも、あの背伸びや失敗も含めて、少しずつ会社になっていった。

そして、あの会社とは20年以上のお付き合いになりました。

そんなことを考えると、

AIのなかった1999年も、それほど悪くなかったのかもしれません。

Santana「Smooth」
1999年11月、全米No.1。

私が一人で会社を始め、会社案内に「気持ち」と「願望」を書いていた頃、こんな曲が流れていました(笑)。

◆筆者:辻 正雄

デジタジオ株式会社(ビジコン運営)代表
株式会社アーティストユニオン代表
経営者に寄り添うマーケター:マサオフィス